臨時デジタル衛兵になる

この作品では、VRは単に広い視野を提供する表示デバイスとしてではなく、パフォーマーの身体と現実空間にいる観客との関係を生み出すツールとして活用されています。仮想世界の行動と現実世界の身体は意図的に分離され、パフォーマーはVR空間内でタスクを遂行し、目標を達成して物語を進行させる一方で、現実空間に残された身体は、観客と継続的に関わりを持ちます。この関係性は、パフォーマーがVR空間内で目の前に見えるキャラクターを「指さす」という特定の動作を通じて成立します。

作品の着想は、社会的出来事に対する作者の観察に基づいています。現代社会では、ルールやプログラムに基づいて行動することで公共の安全を維持し、物事を秩序だてて進めることが目的とされています。しかし近年頻発する公共事件の中で、作者は「断絶」という現象を強く感じてきました。大多数の利益を守るという名目の下、個人がしばしば無視され、その結果として断絶が繰り返されているのです。

本作品は、この「断絶」をパフォーマンスを通じて表現しようとしています。VR空間内でパフォーマーがゲームの目的達成に集中する一方で、現実世界の身体は、無意識のうちに観客と関係を築き続けます。あるいは言い換えれば、観客からデータを収集し、それによってVR世界の仮想キャラクターが存続するのです。この仮想と現実の双方向的な関係性は、現代社会のルール運用の在り方を象徴的に描き出し、観客に対して、個人のルールと秩序の中での立場を問いかけます。